ワタシが父親になったあの日
はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」
「生まれてくれてありがとう」そして、「産んでくれてありがとう」
よく耳にするフレーズであるが、やはりこの日のことを思い出すと、これしか当てはまる言葉が見つからない。
ワタシが記憶に残っている、あの日は長男が生まれた日のこと
出産予定日を過ぎてもなかなか生まれてくる気配がない。
ある日の朝、突然その時は訪れました。産気づいた妻を車に乗せ、いつもの産婦人科へ向かった。
しかし、陣痛の間隔が短くなるどころか、陣痛は治ってしまい、一時帰宅することになった。
再度、陣痛が始まったのが、その日の夜になってからだった。今度こそということで、前から考えていた「バースデープラン」どおり、一緒に分娩室に入り、好きな音楽を流しながら、ビデオ撮影の準備をして、妻の手を握り、陣痛の度に一緒に力み、その時を待ち構えていた。
しかし、なかなか生まれてこない。何かがおかしい。先生が「赤ちゃんの心音が止まっている。」エコーを見ると、へその緒が赤ちゃんの首に絡まっているらしい。
緊急帝王切開手術に切り替えることになり、うる覚えであるが、その場で手術の簡単な説明をされ、手術の同意書にサインをしたような記憶がある。
それまでは、好きな音楽を聴きながら、「一緒にがんばろう。」と手を繋いでいたのに、分娩室から出され、離れ離れになり、妻と赤ちゃんの無事を分娩室の外から祈ることしかできなくなった。
そのあとは、この病院にはこんなに先生や看護師さんがいたのかというぐらい次から次へと分娩室に入っていき、只事ではない雰囲気でますます心配になった。
普段は神様なんてあまり信じていないのに、あの時ばかりは祈ることしか出来なかった。
でも、神様はいました。分娩室から看護師さんが出てきて、「無事に元気な赤ちゃんが産まれましたよ。奥様も元気ですよ。」
すぐに分娩室に入り、麻酔でぐったりしている妻と生まれたばかりの元気な我が子に駆け寄った。
その後は、自分自身の手でへその緒を切り、慣れない手つきで我が子をぎゅっと抱きしめ、涙を流した。
「あの日のあの感覚、あの感動を忘れることは決してない。」